603号室 / ”写生”と数学

SDIM2181

地面に12枚のパネルと小さな液晶モニタが1つ、垂直に固定されている。パネルには複数の食器が様々な角度で集まっている様がたて横高さを示す直線とと共に映っている像、および、平面を示す直線と共に映る水滴のようなものの像が貼られている。モニタには棒のようなものが転回するモノクロのアニメーションが映っている。空間はぼんやりと明るい。

今回は普段から撮りためている、キッチンの洗いかごに食器が溜まる様を取り上げました。自重で自立しもたれ合うその様は一見奇妙でありながらも完成していて 目を惹きます。水滴はテーブルにこぼしたヨーグルトとジャムが混じった様ですが、柔らかく水分に富んだその2つの物質のその面への瞬間的な広がり様は目を惹くものがあります。

ここでいっている”写生”というのは明治期の俳人正岡子規が述べたものです。ご存じのとおり、理屈を退け、一読してその光景が目に浮かぶように17語で状況を写しとる、という方法です。事象を精緻に受容します。西洋、東洋と比較検討した際に日本的なものとして特化しうる1つの優れて有効な方法だと合点が行きます。わたしはできるだけ感覚に忠実に、後に再現しうるよう、普段から気になる様を記録しているわけですが、どこか共通するものを感じます。

数学というのは、その真逆にあり、2つ以上の事象について、個々の事象ではなくその関係性に注力して考察し、原理を追求する方法です。可能性と妥当性のせめぎあいの結果新鮮な概念が提示されます。今回、空間軸をもって全体の共通項としました。

写生と数学、この2つの方向性をうまく咀嚼して内包し、広く展開しうるのが美術ではないか、そのときには豊かな現実感が体験されているのではないか、と考えています。これは現代において切実に必要とされている方法だとも考えています。
引き続き追っていきたいと思います。